火曜。

・遺品。そのひとがすでに死んでいるので、安らぎを感じる。初めから終わりまで見渡せ、その人生から歴史とのつながりをひも解いてゆける。そのひとを尊敬し、大切に思っていたひとの気持ちを指先に感じて、厳粛な感情を抱く。ただ与えられた不思議な縁に感謝している。こんな幸いは最後かもしれない。書き残せればと思うのだけれど、それは僭越な行為で、だいいち、私の言葉はもう枯れてしまったかもしれない。

・回想。ある老いた評論家がレクチャーをしている。若手の理論家が鋭い質問を投げかけたので、年上の評論家は少し躊躇する。その質問は、評論家自身がその若者の年ごろの時に年上の作家に抗して書いたものと同じフレーズだった。

・しわスパイラル。どうして、てんぱってピリピリしている時に限って、様々な人が面倒くさい用件を運びこんでくるのだろう、と私よりもさらに多忙そうな人の時間を15分ほど奪って愚痴る。先週、同じような件で悩む友人に(とはいえ、その人に持ちかけられた面倒というのは私にとっては非常に奇想天外な内容で…)「それはきっと悪いオーラが出てるんだよ」と返答したばかりなのだが。そうやって魔が差すので睡眠時間が減るのだよ。きっと諦めたい弱い心の自分が地雷を踏ませているんだ。