展報―佐佐木方斎 メタレリーフ展 1

1.佐佐木方斎の仕事

 佐佐木方斎は、北海道大学で数学を研究しながら画業に入り、80年代から90年代初頭まで絵画、版画、出版、展覧会企画、カフェ・展示スペースやネットでの仮想スペースの運営など、さまざまなメディアと社会的枠組を駆使した活動を繰り広げながら、札幌現代アートの先端を牽引した伝説的な作家である。しかし、90年代後半には、表立った活動を停止してしまう。今回の展示では、97年以降の作品を初公開しており、彼の作品制作の総括ともいえる、この時期の制作活動の様子を明らかにする画期的なものとなった。

 会場では、画廊主の中森氏が所蔵している3冊の版画集や作家が編集した雑誌「美術ノート」を手がかりに、80年代から発展的に制作されてきた佐佐木方斎の仕事の展開を時間軸にそって追体験できるようにしてある。そのなかでも、作家の思考の変遷が顕著に表れている版画集の仕事を辿っていこう。

2.格子群―余剰群―自由群

 最初の作品集にして、のちの作品の基礎となっているのは、「格子群」という作品群である。結節であると同時に分割でもあるような両義性を持った格子を描いた作品で、様々なバリエーションがある。比例的な正しさと視覚的な美しさの折り合うアイデアが、一つ一つの作品という諸相として立ち現われているようだ。比例的な正しさについては、一瞥で判るものではないが、そのミニマル・アートにも似た官能性を、直観的に感じとることが出来る。

 次に制作された「余剰群」のシリーズは、格子の間の余剰である正方形を素材にしたものである。
正方形は、「格子群」にような格子を切り取ったあとの「余剰」の部分であり、二点組の幾何学的な形の中に閉じ込められている。幾何学形態の輪郭をなす境界線は、筆で描かれたものではなく、中に閉じ込められた正方形の一部が、正方形や六角形の輪郭を形作っており、その背後にある力学を暗示するような、緊張感が漂う。

 この作品集には、いくつかの制約条件が定義されている。
 まず、刷り師に印刷を依頼する際の価格設定が「一色一版あたりいくら」の単位だったという経済的な理由から、色数を限った上で、より色数を豊富に見せるようことを意図した。
 次に、幾何学的な形をした枠組の中に、色と形を出来るだけ多く見せるように配置することも条件とした。出来るだけ色数を豊かに見せたいが、枠組から色面が溢れてしまえば、作品全体が壊れてしまうという形の拮抗が、独特の緊張感を生んでいる。また、こうした厳密さの中で、細部の工夫やユーモアが光ってくる。
 
(つづく)

 
(追加予定の部分↓)

「自由群」

3.テンポラリーでの展示、あるいは、メタレリーフ