加賀美恵美展

2009年6月25日〜7月5日いず画廊(銀座)にて。
長い間アップできず、すみません。

初出展から4年という短期間で全道展会友になった北海道富良野市在住の作家 加賀美恵美さんが、銀座で初個展を開いているというお話を伺い、いず画廊へ。
北海道新聞富良野版によれば、加賀美さんは2005年から遠山隆義氏主宰の絵画塾「アトリエどりーむ」で指導を受け、翌年には独立展と全道展に初出品、初入選した。当日も同展の会員の方々が加賀美さんの絵を見るためにご来場されており、加賀美さんのご活躍ぶりが伺えました。居合わせた筆者も加わって、ちょっと記念撮影…!


Emi Kagami and Dokurituten(Dokuritu Art Union)menbers

左上から時計回りに金井訓志氏、向井隆豊氏、伊東茂広氏、湯澤 宏氏、出口佳子氏といった独立美術協会会員の方々に加賀美恵美さん、筆者、加賀美さんの娘さん。

会場にいらっしゃった加賀美さんからも、展示された絵画からも、描くことを楽しんでいる感じが伝わってくる。重厚で叙情的な画面に、とぼけたユーモアが組み合わさっている。

100号の大作≪夢追い人≫シリーズは、DM葉書にある作品と実際に展示してある作品を比較してわかるとおり、展示後にも修正を加えている展示後の描きなおしや修正部分の扱いも面白い。中心に寝ている人物の手を直したらしい。完成、未完と決めずに展示後にも修正を加えるとのこと。再構築の可能性を残したまま展示されていて、ほかに展示されていた大作についても、まだ直したいものもあるのだという。

Emi Kagami,2009,oil painting

こうした再構築を助けるボキャブラリの一つとして、コラージュの技法があるといえるかもしれない。いつでも上から新たな表面を貼って描くことが出来るし、剥がしてしまうことだってできる。そういうおおらかさを感じさせる。

また、動物の中にもう一匹動物が含まれてしまったり、雲が浮かんでいたりといった、内と外の逆転があるのも意外性があるようだ。

登場する人物や動物は、ひとつ見つければ、それと呼び合い、追いかけているような、もうひとつが描かれているのがわかる。リズムを感じる掛け合いには、画面を繋いで行きかう交感というアイディアの豊かさ、その構成の巧みさと同時に、描き手自身の人柄の温かさも感じられる。


Emi Kagami,2009,water color
左:≪オーイ≫というタイトル。絵の中に書かれた言葉の掛け合いが、独特。二人の人物の「オーイ」「ネエ〜」という呼びかけのフレーズがそのまま縦書きで書きいれられている。
右:水彩は始めたばかりだそうだけれど、いい雰囲気のものが多い。


Emi Kagami,2009,oil painting
≪夢追い人(想い)≫(部分):出てくる動物や魚の手足(!)や表情も阿吽の呼吸。そして少し夢見がちなまなざし。

会場では、小品が好評のようだった。小品では、構成が大作よりもシンプルになるため、彼女の魅力であるモチーフの解釈や、絵肌の盛り上げの感触がすっと目に入ってくる。一方、大作は、小品にも見られるようなアイディアがより練り上げられて複雑に構成されているので、一瞥で見通せずにじっくり眺めていると細部に思わぬ発見があるような、深みのある作品になっている。*1

*1:一瞥で見られる構造や情報量をどれだけにするか、作家や時代によって感覚が違うのかもしれない。作家がゲシュタルト心理学を利用して一瞥の視角からモチーフを隠すとき、それは「優れた作品は一瞥でわかる」という言葉や感覚を秘かに回避しているのかもしれない。またその感覚は、複数の異なるパートが協和するポリフォニー、あるいは、ずれによる多声化であるヘテロフォニーを絵画に持ち込む作家の企てへとつながるのだろう。画家によって隠されたモチーフについて言葉にすることは、言葉自体の信憑性を危険にさらす。